しんりのblog

思ってる事、好きな事、トライした事などなどを書きます。

いくらで売るか? part 2

part 1の続き。
shinri55.hatenablog.com
前回、個人的には売上より利益優先の方がいいと思うと書いたけど、その理由とここらへんはキーエンスの仕組みがとてもよく出来ていると感じたので、いいと思った事を書く。
シェアを取るためにあえて安い価格で競合を排除するという手法もあるとは思うけど、ただ安いだけだともっと安いところが出てきた時に更に安くしないといけないので、どうやって利益を取るかは考えとくべき。

いくらで売るかというのは非常に難しいけど、企業にとっては大事な事3本の指に入ると思う。

海外のプライシング

SAP時代、辞める直前ぐらいにVendavoという3rd partyのソリューションをOEMで販売し始めた。
どのくらいのプライスバンドで売るのが最適かマネージするソリューションで、製品毎、顧客毎等にどの金額範囲で販売されているのか、いくらで売った際に最大の利益が出るか分析できるようなソリューションだった。
非常に高額なソリューションだけど海外では普及しているらしく、日本は適切なプライシングが検討されていないという話を聞き、お客様にも何度か話した。

この領域のソリューションは当時プレーヤーが少なく、マッキンゼーのソリューションがExcelのようなUIだがシェアが高いという話を聞いた。(誰かとの会話の中で聞いたので本当かどうかわからないけど。。。)
そこで当時この本を読んだ。

マッキンゼー プライシング (The McKinsey anthology)

マッキンゼー プライシング (The McKinsey anthology)

プライシングはロジックと現場感両方大事で、必ずしも書いてある通りじゃないと思ったが、ロジック面ではこの本の影響を大きく受けている。

ただ価格を上げる事はよくないが、価格を上げないといけないケースは多い。
営業としては何故価格を上げる必要があるのか、現在の状況を含めしっかり話せないといけないと思っている。
そうしないとお客様の信頼を失い、本当は価格が上がってもそのお客様にとってはとても役に立つのに、お客様が離れてしまいお客様に損をさせる事にも繋がる。

自分の中でのプライシングのロジック

自分の中で価格について考えている事を箇条書きにしてみる。
売る側として書いてるけど、買う時にも同じように考えている。

価格の決め方と影響

  • 価格は価値によって決めるべきである。
  • 顧客認知価値が増えているのに価格を同じにするのは値引きと同じ効果がある。
  • 顧客認知価値を増やす事が出来ない競合は値下げで対抗してくる。結果業界全体の平均価格が下がってくる。

何故今価格を上げるのか

  • 価値が上がる際に価格は上げないといけない。そうしないと結果的に業界全体の収益が上がらなくなり、投資ができなくなる。
  • 結果、品質、サービスの質が下がったり製品自体を提供できなくなり、結局はお客様も不幸になる。
  • 価格を上げる事により離れるお客様もいるが、全てのお客様を満足させる事は不可能なので、どんなお客様の役に立ちたいのか明確にする。

プライシングにおける営業の役割

  • 提供価値と顧客の認知価値は違う
  • 実際にその製品が提供できる価値よりお客様が認知している価値は低い事が多く、それを埋めるが営業の役割の一つ。
  • 特に複雑な製品ほどその傾向が強いので営業の介在価値が高く、営業が価値を説明できないと価値より安い価格で提供しないといけなくなる。(ドリルじゃなく穴を売る話やそもそも多機能すぎて全体を理解するのが難しい)

価格を上げる事の効果

  • 販売価格を上げる事は、販売数量を増やす事、コスト削減することより利益への影響が大きい。(S&P構成企業1500の売上数量、単価、コスト比率で考えると価格を1%引き上げると営業利益が8%増え、売上数量を1%増やした時の3倍の効果があるらしい)
  • 顧客の認知価値が変わらず価格だけが変わると、相対的に競合より高くなり切り替えるお客様が出てくる。特にスイッチングコストが低い製品は切り替えられてしまう。
  • 認知価値も変わると失われるお客様もいるが、新しく獲得できるお客様もいる。(安い物はそれだけの価値しかないと思われるケースがある)

お客様の種類

  • お客様は一人一人、一社一社毎に考えが違うが、自身の状況に合わせて認知価格と認知価値の比例直線上で選ぶケースが多い。
  • 価格を最優先するお客様、一定の品質を満たす中で一番安い物を選ぶお客様、品質、スペックを最優先するお客様がいる。
  • インターネットの普及で金額情報の格差がなくなり、こだわる物は高いコストを払い、それ以外はできるだけ安いものを買うケースが増えてきている。

キーエンスのプライスコントロール

私が新卒で入ったKeyenceという会社は、2018年の営業利益率55.6%と製造業としてはダントツで平均年収も2,088万とこちらもこの規模の会社ではダントツ高い。
私がいた頃より共に大きく伸びているので仕組みも更によくなっていると思うが、転職してみてプライスのコントロールが非常にうまかったと思ったので共有。

  1. 営業の成績が売上じゃなくて利益。
  2. 値引き承認が厳しく、競合より安い値段は承認されない。競合が値引いたから以外のしっかりした理由が必要。
  3. 営業は機能ではなく、価値を伝えることが徹底され、毎日ロープレを実施する。

色々仕組みとしてすごいと思うところはあるんだけど、営業のプライスコントロールという観点では上の3つが大きかったと思う。

プライシング戦略を決めた後に、その価格でお客様が購入するかどうかは、お客様がその価格を払うに値する価値があると納得する必要がある。
その価値や価格を伝えるのは営業の仕事で、営業現場に浸透(腹落ち)させないといけない。
でも営業は売上を上げたいし、利益がなくても売りたいと考える。(自分もよくあります)

キーエンスの特徴の一つに成績が利益というのがあり、これが大きく貢献していると思う。
FA業界では場合によっては7割引、8割引というのが当たり前にある世界で、競合の定価もあってないようなものである。
キーエンスの場合製品毎に仕切り価格(材料費、人件費等の原価)が決められており、それを超えた金額が営業の成績になる。

例えば10,000円の製品の仕切り価格が2,000円で2,500円なら100個買うという人と8,000円で15個買うという人がいた場合、それぞれに売上と利益を比較すると

売上

100個の場合:250,000円
15個の場合:120,000円

利益

100個の場合:50,000円
15個の場合:90,000円

と成績は逆転するので安易な値引きが減る。

更に競合より安い値段や、競合が値引くから値引くという承認は通らない。
これは値段だけで判断されている場合、更に競合が値引くとまた値引かねばならず、業界にとってもよくないという考えがあると思う。

更に本当にどれだけの価値があるか、お客様の状況に合わせて具体例で説明する練習をたくさんするので、実際の価値とお客様の認知価値のずれがなくなり、正当な価格で購入してもらえるのだと思う。

いくらで売るかというのは非常に難しく答えのないものだと思うが、営業としては何故その価格なのかはしっかり説明できないといけないと思い自分の考えを整理してみた。
また企業としてはプライシングは現場に浸透していなければならず、その理由を全員が腹落ちしており、かつそう動きやすいよう目標KPIにも反映させることが大事だと思う。